ある日、一人の老婆が現れました。
「可哀想に。こんなに苦しんで・・・。楽になりたければ、あなたの枯葉剤の犠牲になった人たちに、花を手向けるんだよ」
「え、花を?」
「そうじゃ。お墓へ行って、花を手向けるのじゃ」
一瞬、耳を傾けました。けれど…、激しい恐怖で胸が締め付けられました。
老婆が悩める科学者に話かける。
「じょ、じょうだんじゃない! 悪いのはあいつらだ。俺たちは、自由と民主主義のために、命がけで戦ったんだ! 」
「枯葉剤を使ったお陰でわが国の大勢の兵士の命が救われたんだ。敵を殺すのは当たり前じゃないか。 悪と戦い、国益を守るのは、市民の神聖な義務なんだ。それに、もし競争に負ければ惨めに殺されるだけだ。力の無い正義など、存在しない!」 彼は、老婆を怒鳴りつけました。 科学者は、恐怖にかられて、老婆を怒鳴りつける。

〔ふりがな〕
あるひ、ひとりの ろうばが あらわれました。 「かわいそうに。こんなに くるしんで・・・。らくになりたければ、あなたの かれはざいの ぎせいになった ひとたちに、はなを たむけるんだよ」 「え、はなを?」 「そうじゃ。おはかへ いって、はなを たむけるのじゃ」 いっしゅん、みみをかたむけました。けれど…、はげしい きょうふで むねが しめつけられました。 「じょ、じょうだんじゃない! わるいのは あいつらだ。おれたちは、じゆうとみんしゅしゅぎのために、いのちがけで たたかったんだ! 」 「かれはざいを つかったおかげで わがくにの おおぜいの へいしの いのちが すくわれたんだ。 てきをころすのは あたりまえじゃないか。 あくとたたかい、こくえきを まもるのは、しみんの しんせいな ぎむなんだ。 それに、もしきょうそうに まければ みじめに ころされるだけだ。ちからのない せいぎなど、そんざいしない!」 かれは、ろうばを どなりつけました。

P.30