| 神と善悪 |
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| 東郷 潤 |
| 〔ふりがな〕 かみ と ぜんあく とうごう じゅん |
P.1
| 遠い宇宙のある星に、善悪を何よりも大切にする人々が住んでいます。 |
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| 彼らにとって、善悪は神様からの命令です。善は「しろ」、悪は「するな」ということです。 神様は絶対なので、善悪には絶対に従わなければいけないと彼らは固く信じています。 |
| 〔ふりがな〕 とおい うちゅうの あるほしに、ぜんあくを なによりも たいせつにするひとびとが すんでいます。 かれらにとって、ぜんあくは かみさまからの めいれいです。ぜんは「しろ」、あくは「するな」ということです。 かみさまは ぜったいなので、ぜんあくには ぜったいに したがわなければいけないと かれらは かたく しんじています。 |
P.2
| ある年のことです。 湖の魚に病原菌が増えて、魚を食べた大勢の人が病気になりました。 神様は人々のことを心配し、預言者に言いました。 預言者というのは、神様の言葉を伝える人のことです。 |
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| 〔ふりがな〕 あるとしのことです。 みずうみの さかなに びょうげんきんが ふえて、さかなを たべた おおぜいのひとが びょうきになりました。 かみさまは ひとびとのことを しんぱいし、よげんしゃに いいました。よげんしゃというのは、かみさまの ことばを つたえる ひとのことです。 ひとびとに つたえて ほしい。 びょうきの げんいんは みずうみの さかななんだ。びょうげんきんが いるさかなを たべちゃいけないよ |
P.3
| 預言者は人々に神様のお告げを伝えました。 |
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| 預言者に言われて、人々は魚を食べなくなりました。 人々はとても敬虔で信心深く、悪いことをするような人は、ただの一人もいなかったのです。 おかげで病気の広がりは食い止められました。みんな大喜びです。 |
| 〔ふりがな〕 よげんしゃは ひとびとに かみさまの おつげを つたえました。 よげんしゃに いわれて、ひとびとは さかなを たべなくなりました。 ひとびとはとてもけいけんで しんじんぶかく、わるいことを するようなひとは、ただのひとりも いなかったのです。 おかげで びょうきの ひろがりは くいとめられました。みんなおおよろこびです。 |
P.4
| ・・・それから、数百年という年月が流れました。今では病原菌もいなくなり、湖の魚を食べても安全です。 ある年、天候不順で、ひどい飢饉になりました。でも、人々はずっと「魚を食べることは悪いこと」と信じているので、誰一人、魚を口にすることはありません。 |
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| その結果、大勢の人が飢え死にしていきました。 |
| 〔ふりがな〕 ・・・それから、すうひゃくねんという ねんげつが ながれました。いまでは びょうげんきんも いなくなり、みずうみの さかなを たべても あんぜんです。 あるとし、てんこうふじゅんで、ひどいききんに なりました。でも、ひとびとは ずっと「さかなを たべることは わるいこと」としんじているので、だれひとり、さかなを くちにすることはありません。 おなかが へったよ～ そのけっか、おおぜいのひとが うえじにしていきました。 |
P.5
| それを見た神様は悲しくなりました。人々を愛していたからです。 神様は、ふたたび預言者へ話すことに決めました。最初の預言者はもう亡くなっていたので、今度の預言者は別の人です。彼も神様の言葉を聞くことが出来ました。 |
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| 〔ふりがな〕 それをみた かみさまは かなしくなりました。ひとびとを あいしていたからです。 かみさまは、ふたたび よげんしゃへ はなすことに きめました。さいしょの よげんしゃは もうなくなっていたので、こんどの よげんしゃは べつのひとです。かれも かみさまの ことばを きくことが できました。 ひとびとに つたえてほしい。 もうびょうげんきんは いなくなったから、さかなを たべなさい。そうすると うえずにすむから |
P.6
| 新しい預言者は人々に伝えました。 |
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| そこで人々は、魚をどんどんと食べるようになりました。 |
| 〔ふりがな〕 あたらしい よげんしゃは ひとびとに つたえました。 さかなを たべることは、よいことです。これは かみさまの おつげです そこで ひとびとは、さかなをどんどんと たべるようになりました。 |
P.7
| 中には、魚の獲りすぎを心配する人もいます。 |
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| 魚の獲りすぎを心配する人は、叱られて口を閉ざしました。 |
| 〔ふりがな〕 なかには、さかなの とりすぎを しんぱいする ひともいます。 こんなに さかなばかり たべていたら、すぐにさかなが いなくなるわよ なんだと？ おまえは かみさまに さからうのか。さかなを たべるのは よいことなんだぞ さかなの とりすぎを しんぱいする ひとは、しかられて くちを とざしました。 |
P.8
| すぐに湖の魚は食べつくされ、ほとんどいなくなってしまいました。少しずつ計画的に食べていれば、ずうっと食べ続けることが出来たのですが・・・ |
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| 結局、大勢の人が餓死することとなりました。 |
| 〔ふりがな〕 すぐに みずうみの さかなは たべつくされ、ほとんどいなくなってしまいました。 すこしずつ けいかくてきに たべていれば、ずうっと たべつづけることが できたのですが・・・ さかなが つれない。おなかがすいたよお けっきょく、おおぜいの ひとが がしすることとなりました。 |
P.9
| 神様はとても悲しみました。人々を深く愛していたからです。 |
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| 人々はせっかくの神様の愛を、善悪の錯覚で受け取ることが出来ず、闇の中でもがき苦しんでいるのです。 |
| 〔ふりがな〕 かみさまは とてもかなしみました。ひとびとを ふかくあいしていたからです。 ひとびとは せっかくの かみさまのあいを、ぜんあくの さっかくで うけとることが できず、やみのなかで もがきくるしんでいるのです。 |
P.10
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あれ、どうしたんでしょう？ 人々が争っています。 |
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| それぞれ新旧の預言者を信じる人々です。 |
| 〔ふりがな〕 あれ、どうしたんでしょう？ ひとびとが あらそっています。 さかなを たべるな！ かみさまに さからう あくにんめ！ さかなを たべろ！ かみさまに さからう あくにんめ！ それぞれ しんきゅうの よげんしゃを しんじる ひとびとです。 |
P.11
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| 神様が泣いています。 |
| 〔注〕 雨を神様の涙に見立てた文学的な表現です。神様を冒涜する意図は一切有りません。 |
| 〔ふりがな〕 かみさまが ないています。 |
P.12
あとがき -絵本「神と善悪」 |
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善悪という考え方／言葉は、本当に様々な錯覚と悲劇を生み出します。 もし、あなたがこの絵本に共感されたなら、他の方にも読ませてあげていただければと思います。 本絵本は、自由にコピーして下さって結構です（商業出版はじめ金銭的な授受を伴う場合を除きます）。 また下記ＷＥＢからは、東郷潤の他の絵本やメッセージをダウンロードすることが出来ます。 www.j15.org |
| ©Jun Togo 2012 |
P.13
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