一輪の花 |
―原爆を滅ぼすもの― |
東郷 潤 |
〔ふりがな〕 いちりんのはな げんばくを ほろぼすもの とうごうじゅん |
広い宇宙のある星でのお話です。 |
この星は地球ではありません。 |
〔ふりがな〕 ひろいうちゅうのあるほしでのおはなしです。このほしはちきゅうではありません。 |
海から渡ってきた、ダイヤ形の触角を持つ兵士たちが、三日月形の触角を持つ人々の村を襲っています。 |
〔ふりがな〕 うみからわたってきた、だいやがたのしょっかくをもつ へいしたちが、みかづきがたのしょっかくをもつ ひとびとのむらを おそっています。 |
若い兵士が撃った銃弾が、三日月形の触覚を持つ少女を貫きました。 |
少女はとても綺麗な子でした。―兵士は、少し嫌な気持ちになりました。 |
〔ふりがな〕 わかいへいしが うったじゅうだんが、みかづきがたの しょっかくをもつ しょうじょを つらぬきました。しょうじょは とてもきれいなこでした。 ―へいしは、すこし いやなきもちに なりました。 |
殺戮は何年も続きました。その結果、三日月形の触角を持つ人々は、ほとんどいなくなってしまいました。 そして、わずかに生き残った人々も抵抗を諦めました。 |
むろんこの星の人々は、これを見て恐怖に震えました。―そして、同じ目に会いたくないと軍備の増強を始めたのです。 |
〔ふりがな〕 さつりくは なんねんも つづきました。そのけっか、みかづきがたの しょっかくをもつ ひとびとは、ほとんど いなくなってしまいました。 そして、わずかに いきのこったひとびとも ていこうをあきらめました むろん このほしのひとびとは、これをみて きょうふにふるえました。―そして、おなじめにあいたくないと ぐんびのぞうきょうをはじめたのです。 |
こうして、ダイヤの触角を持つ人々の新しい国が生まれました。
|
兵士たちは新しい国の英雄です。みんな大喜び! |
〔ふりがな〕 こうして、だいやのしょっかくを もつひとびとの あたらしいくにが うまれました。おれたちは、じゆうだ! へいしたちは あたらしいくにの えいゆうです。 みんなおおよろこび! |
実は、彼らの多くは、母国では自由がなく、幸せではなかったのです。 |
〔ふりがな〕 じつは、かれらのおおくは、ぼこくでは じゆうがなく、しあわせではなかったのです。 |
―それから20年が過ぎました。 兵士は結婚し、可愛い女の子が生まれて幸せに暮しています。 |
〔ふりがな〕 ―それから20ねんが すぎました。 へいしは けっこんし、かわいいおんなのこが うまれて しあわせに くらしています。 |
ある日のことです。 「どうしたの、パパ?」少女が聞きました。 「い、いや、なんでもない」 |
彼は、一瞬、娘を自分が殺した少女と見間違えてしまったのです。 いつのまにか、娘は、死んだ少女と同じぐらいの年齢になっていました。 |
〔ふりがな〕 あるひのことです。 「どうしたの、ぱぱ?」しょうじょが ききました。 「い、いや、なんでもない」 かれは、いっしゅん、むすめを じぶんがころしたしょうじょと みまちがえてしまったのです。 いつのまにか、むすめは、しんだしょうじょと おなじぐらいのねんれいになっていました。 |
それから彼は、よくお酒を飲むようになりました。 |
〔ふりがな〕 それからかれは、よくおさけを のむようになりました。 |
ある日、兵士は、自分の娘が、三日月の触角を持つ子どもと遊んでいるのを見つけました。
「こらあ、こいつらと遊ぶな!」彼は思わず娘を怒鳴りつけました。 |
〔ふりがな〕 あるひ、へいしは、じぶんのむすめが、みかづきのしょっかくを もつ こどもと あそんでいるのをみつけました。 「こらあ、こいつらとあそぶな!」かれは おもわず むすめをどなりつけました。 |
「いいか、よく聞きなさい。こいつらは劣等民族だ。いずれ滅びさることがきまっているんだ。我々、ダイヤの触覚を持つ進化した人間が、全てを支配するんだ。それは、神様の明白な意志なんだよ! この世は弱肉強食なんだから!」 「はい、パパ!」 「こいつらと仲良くするということは進化に逆行する、悪いことなんだよ」 「はい、パパ!」 「我々は、正義のために、劣等民族と戦わなければいけないんだよ」 「はい、パパ」 |
〔ふりがな〕 「いいか、よくききなさい。 こいつらはれっとうみんぞくだ。いずれ ほろびさることが きまっているんだ。われわれ、だいやのしょっかくを もつ しんかした にんげんが、すべてを しはいするんだ。それは、かみさまの めいはくないし なんだよ! このよは じゃくにくきょうしょく なんだから!」 「はい、ぱぱ!」 「こいつら となかよくするということは しんかにぎゃっこうする、わるいことなんだよ」 「はい、ぱぱ!」 「われわれは、せいぎのために、れっとうみんぞくと たたかわなければ いけないんだよ」 「はい、ぱぱ」 |
しだいに兵士のお酒の量が増えていきました。 |
〔ふりがな〕 しだいに へいしの おさけのりょうが ふえていきました。 |
ある日、酔っ払っている彼に、一人の老婆が話しかけて来ました。
「おや、可哀想にねえ。ずいぶん苦しんでいるじゃないか」 「誰だ? お前は」 「楽になりたかったらね、自分が殺した人たちに花を手向けるんだよ」 |
〔ふりがな〕 あるひ、よっぱらっているかれに、ひとりのろうばが はなしかけてきました。 「おや、かわいそうにねえ。ずいぶん くるしんでいるじゃないか」 「だれだ? おまえは」 「らくになりたかったらね、じぶんが ころしたひとたちに はなを たむけるんだよ」 |
「な、なんだと!」彼はおばあさんを怒鳴りつけました。 「じょうだんじゃない! 俺は、悪くない! あいつらは劣等民族だ! 進化した人間が野蛮人を殺すのは神の御心だ!」 怒った彼は、おばあさんを射殺してしまいました。 |
〔ふりがな〕 「な、なんだと!」かれは おばあさんを どなりつけました。 「じょうだんじゃない! おれは、わるくない! あいつらは れっとうみんぞくだ! しんかしたにんげんが やばんじんをころすのは かみのみこころだ!」 おこったかれは、おばあさんを しゃさつしてしまいました。 |
その後、兵士はお酒で体を壊し亡くなりました。 そして、30年が経ちました。 |
〔ふりがな〕 そのご、へいしは おさけで からだを こわしなくなりました。 そして、30ねんがたちました。 へいしのむすめは けっこんし、おとこのこが ひとりいます。 |
「ねえ、あの人たち、何をしているの?」 お母さんと散歩しているとき、男の子が指差しました。 そこには、三日月の触覚の、みすぼらしい人たちがいます。 |
〔ふりがな〕 「ねえ、あのひとたち、なにをしているの?」 おかあさんと さんぽしているとき、おとこのこが ゆびさしました。 そこには、みかづきのしょっかくの、みすぼらしいひとたちが います。 |
「あの人たちはね、生存競争に負けた民族なの。仲良くしちゃダメよ!」 「はい、ママ」 「亡くなったお父様は、いつもおっしゃっていたわ。 この世は弱肉強食だって。弱いものは、負けてひどい目に会うの。 それは神様が決めた法則なの。そして最も強い、ダイヤの触角を持つ人間が世界を支配するのよ。―それが神様のご意志 、つまりは正義なのよ」 「はい、ママ」 |
〔注〕「神様」と書きましたが、地球のどの宗教とも関係はありません。 |
〔ふりがな〕 「あのひとたちはね、せいぞんきょうそうに まけたみんぞくなの。なかよくしちゃ だめよ!」 「はい、まま」 「なくなった おとうさまは、いつもおっしゃっていたわ。 このよは じゃくにくきょうしょく だって。 よわいものは、まけてひどいめに あうの。 それはかみさまが きめたほうそくなの。 そしてもっともつよい、だいやのしょっかくを もつ にんげんが せかいをしはいするのよ。―それがかみさまのごいし 、つまりはせいぎなのよ」 「はい、まま」 |
「お父様は建国の英雄だったの。あなたも神様を信じて、人類の進化のために戦ってね。 何があっても競争に負けたら駄目よ。負けたら、ああなるの。よく見ておきなさい」 |
「負けたら、ああなる」 …男の子は恐怖に震え、絶対に勝つんだ、と強く決心しました。 |
〔ふりがな〕 「おとうさまは けんこくの えいゆうだったの。あなたも かみさま をしんじて、じんるいの しんかのために たたかってね。 なにがあっても きょうそうに まけたらだめよ。まけたら、ああなるの。よく みておきなさい」 「まけたら、ああなる」 …おとこのこは きょうふにふるえ、ぜったいにかつんだ、と つよくけっしんしました。 |
―それから20年が経ちました。 男の子はずっと競争に勝ち続け、立派な農場主になりました。たくさんのお金と奴隷を手に入れたのです。 |
〔ふりがな〕 ―それから20ねんがたちました。 おとこのこは ずっときょうそうにかちつづけ、りっぱな のうじょうしゅになりました。たくさんのおかねと どれいをてにいれたのです。 |
奴隷は、蝶の形の触角を持つ人々です。 もともと遠い国に住んでいたのですが、ダイヤ形の触覚を持つ人々に誘拐されて奴隷にされてしまったのです。 |
むろん、これを見たこの星の人々は恐怖に震え、軍備の増大を進めました。 |
〔ふりがな〕 どれいは、ちょうのかたちの しょっかくをもつひとびとです。 もともと とおいくににすんでいたのですが、 だいやがたの しょっかくを もつひとびとに ゆうかいされて どれいにされてしまったのです。 むろん、これをみたこのほしの ひとびとは きょうふにふるえ、ぐんびのぞうだいを すすめました。 |
さて、競争に勝つためには、奴隷をぶって働かせる必要がありました。 |
〔ふりがな〕 さて、きょうそうに かつためには、どれいをぶって はたらかせるひつようが ありました。 |
あれ? どうしたのでしょう? 奴隷が動かなくなりました。 ―死んでしまったようです。 |
〔ふりがな〕 あれ? どうしたのでしょう? どれいが うごかなくなりました。 ―しんでしまった ようです。 |
翌日、大勢の奴隷が逃げ出しました。 |
悪い奴隷に罰を与えられないような、弱い心を持っていては生存競争に勝てません。 |
〔ふりがな〕 よくじつ、おおぜいの どれいが にげだしました。 わるいどれいに ばつをあたえられないような、よわいこころを もっていては せいぞんきょうそうに かてません。 |
「こいつら全員、ぶち殺してやる!」 彼は奴隷を追いかけて、女性も子どもも一人残らず、射殺しました。 |
〔ふりがな〕 「こいつら ぜんいん、ぶちころしてやる!」 かれは どれいをおいかけて、じょせいも こどもも ひとりのこらず、しゃさつしました。 |
その後、彼は、悪夢や幻覚に悩まされるようになりました。 …でも、彼はお酒を飲んで忘れることは出来ません。彼のおじいさんが、お酒で早死にしていたからです。 |
そこで、彼は教会へ行きました。神様に罪を告白し、守ってもらおうと考えたのです。 |
〔ふりがな〕 そのご、かれは、あくむや げんかくに なやまされるようになりました。 …でも、かれは おさけをのんで わすれることは できません。かれのおじいさんが、おさけで はやじに していたからです。 そこで、かれはきょうかいへ いきました。かみさまに つみをこくはくし、まもってもらおうと かんがえたのです。 |
「私は、大勢の奴隷を射殺しました。だって、あいつらは逃げ出したから仕方が無かった。 秩序を乱すことは悪い事です。 悪を罰しなければ、文明を守ることは出来ません」 |
「よく告白してくださいました。神の許しを請いましょう。祈るのです」
「神様、どうかお許しください」 「これであなたの罪は許されました。神様があなたをお守りくださいます 」 |
〔注〕 読者の中にはキリスト教の新約聖書にある、以下の記述を連想される方がいらっしゃるかも知れないが無関係です。念のため。 ●わたしたちが自分の罪を告白するなら、神は忠実で義なる方ですから、わたしたちの罪を許し、わたしたちを全ての不義から清めてくださいます。(ヨハネ第一1:9 ) |
〔ふりがな〕 「わたしは、おおぜいのどれいを しゃさつしました。 だって、あいつらは にげだしたから しかたがなかった。ちつじょをみだすことは わるいことです。 あくをばっしなければ、ぶんめいをまもることは できません」 「よく こくはくして くださいました。かみのゆるしを こいましょう。いのるのです」 「かみさま、どうかおゆるしください」 「これで あなたのつみは ゆるされました。かみさまが あなたを おまもりくださいます 」 |
その後、彼はいつもお祈りをするようになりました。お祈りをしている間は、神様のことしか見えません。だからその間は、恐ろしい幻覚を見ることは有りません。 |
でも、悪夢を止めることは出来ませんでした。―眠る事が怖くて寝不足が続き、少しずつ頭がおかしくなってきました。 |
〔ふりがな〕 そのご、かれは いつもおいのりを するようになりました。おいのりを しているあいだは、かみさまのことしか みえません。だからそのあいだは、 おそろしいげんかくを みることはありません。 でも、あくむを とめることはできませんでした。―ねむることがこわくて ねぶそくがつづき、すこしずつ あたまが おかしくなってきました。 |
ある日のこと、彼が眠らないよう、教会でお祈りをしていると、 一人の老婆が現れました。 |
「可哀想に。ずいぶんと怖がって、苦しんでいるんだね」 「何だ、お前は!?」 「もし楽になりたければ、あなたが殺した奴隷たちに花を手向けるんだよ」 |
〔ふりがな〕 あるひのこと、かれがねむらないよう、きょうかいで おいのりをしていると、 ひとりの ろうばが あらわれました。 「かわいそうに。ずいぶんと こわがって、くるしんでいるんだね」 「なんだ、おまえは!?」 「もし らくになりたければ、あなたがころした どれいたちに はなを たむけるんだよ」 |
「じょうだんじゃない! 俺は、悪くない! 逆らって逃げ出したあいつらが悪い!!
この世は弱肉強食なんだ!
それにもし俺に罪が有ったとしても、それはもう、神様に許されているのだぞ!」
「あなたを非難しているのでは無いのですよ。私はあなたのために・・・」 |
〔ふりがな〕 「じょうだんじゃない! おれは、わるくない! さからって にげだした あいつらがわるい!! このよは じゃくにくきょうしょく なんだ! それにもし おれにつみがあったとしても、それはもう、かみさまに ゆるされているのだぞ!」 「あなたを ひなんしているのでは ないのですよ。わたしはあなたのために・・・」 うるさい! ばばあ! |
こうして農場主は眠ることが出来ず気が狂って亡くなりました。 ―そして、30年が過ぎました。亡くなった農場主の孫が、新聞記者になっています。 ダイヤの触角を持つ人々の強大な国は、三角の触覚を持つ人々の小さな国と戦争をしていました。 「俺たちは自由と正義のために、悪を滅ぼさなければいけないんだ!」新聞記者の彼は、連日、新聞に書き立てました。 |
〔ふりがな〕 こうして のうじょうしゅは ねむることができず きがくるって なくなりました。 ―そして、30ねんがすぎました。なくなった のうじょうしゅの まごが、しんぶんきしゃに なっています。 だいやの しょっかくをもつ ひとびとの きょうだいな くには、さんかくのしょっかくを もつひとびとの ちいさなくにと せんそうをしていました。 「おれたちは じゆうとせいぎのために、あくを ほろぼさなければいけないんだ!」しんぶんきしゃのかれは、れんじつ、しんぶんに かきたてました。 まるばつ しんぶん さんかくやろうを ころせ! |
彼の国は、敵の2つの都市へ原爆 を落としました。―そして、何十万人という人々を殺しました。 |
三角の触覚の人々は降伏しました。むろん、これを見て恐怖に震えたこの星の人々は、同じ目に会いたくないと、核兵器の開発を始めました。 |
〔ふりがな〕 かれのくには、てきの2つのとしへ げんばく をおとしました。 ―そして、なんじゅうまんにん というひとびとを ころしました。 さんかくの しょっかくのひとびとは こうふくしました。むろん、これをみて きょうふにふるえた このほしのひとびとは、 おなじめに あいたくないと、かくへいきの かいはつをはじめました。 |
新聞記者の彼は、原爆の被爆地―焼け野原―を視察しました。
無数の死体が転がっています。
生き残った人たちも、放射能の影響でバタバタと死んで行きます。 |
〔ふりがな〕 しんぶんきしゃの かれは、げんばくの ひばくち―やけのはら―を しさつしました。 むすうの したいが ころがっています。いきのこったひとたちも、ほうしゃのうの えいきょうで ばたばたと しんでいきます。 |
その後、彼はドラッグに溺れるようになりました。 |
〔ふりがな〕 そのご、かれは どらっぐに おぼれるように なりました。 |
ある日、老婆が現れました。 「可哀想に。こんなに怖がって、苦しんで・・・。 あなたたちが原爆で殺した人たちのお墓に、花を手向けてごらん」 |
「何を!? 三角野郎に頭を下げろというのか? ふざけるな! 原爆投下でわが国の百万人の若者の命が救われたんだ!! それに、原爆投下は、国際法上も何の問題も無かった。 いいか、あいつらは悪だったんだ。それとも俺たちが悪だとでも言うのか?」 |
〔ふりがな〕 あるひ、ろうばが あらわれました。 「かわいそうに。こんなに こわがって、くるしんで・・・。 あなたたちが げんばくでころした ひとたちの おはかに、はなを たむけてごらん」 「なにを!? さんかくやろうに あたまをさげろというのか? ふざけるな! げんばくとうかで わがくにの ひゃくまんにんの わかものの いのちが すくわれたんだ!! それに、げんばくとうかは、こくさいほうじょうも なんのもんだいもなかった。 いいか、あいつらは あくだったんだ。それともおれたちが あくだとでもいうのか?」 |
「あなたが悪だなんて言っていないわ。私は、ただ延々と同じことを繰り返す、あなたを助けたくて…」
「ばかやろう! 俺たちは正義のために戦ったんだ!」 彼はおばあさんを突き飛ばしました。 |
〔ふりがな〕 「あなたが あくだなんていっていないわ。わたしは、ただえんえんと おなじことをくりかえす、あなたを たすけたくて・・・」 「ばかやろう! おれたちは せいぎのために たたかったんだ!」 かれはおばあさんを つきとばしました。 |
その後、新聞記者は麻薬中毒で亡くなりました。
―そして、30年が経ちました。新聞記者の孫が、軍の科学者になっています。 彼の研究は枯葉剤です。 |
〔ふりがな〕 そのご、しんぶんきしゃは まやくちゅうどくで なくなりました。 ―そして、30ねんがたちました。しんぶんきしゃの まごが、 ぐんの かがくしゃに なっています。かれのけんきゅうは かれはざいです。 |
ダイヤの触覚を持つ人々が作った国は、今度は、核兵器を持たないジャングルの小さな国と戦争をしています。
彼が作った枯葉剤は、飛行機でジャングルに散布されます 。そうすると畑も木も枯れて、敵の食料が無くなり、ジャングルに隠れることも出来なくなるのです。 |
〔ふりがな〕 だいやの しょっかくを もつ ひとびとがつくった くには、 こんどは、かくへいきを もたない じゃんぐるの ちいさなくにと せんそうをしています。 かれがつくった かれはざいは、ひこうきで じゃんぐるに さんぷされます。 そうすると はたけも きも かれて、てきのしょくりょうが なくなり、 じゃんぐるに かくれることも できなくなるのです。 |
その枯葉剤は人間にとっては毒となります。その毒の影響で、多くの奇形児が産まれました。 |
むろん、これを見て恐怖に震えたこの星の人々は、同じ目に会いたくないと核兵器の開発や軍事力の増大に励みました。 |
〔ふりがな〕 その かれはざいは にんげんにとっては どくとなります。その どくの えいきょうで、おおくの きけいじが うまれました。 むろん、これをみて きょうふに ふるえた このほしのひとびとは、おなじめに あいたくないと かくへいきのかいはつや ぐんじりょくの ぞうだいに はげみました。 |
その後、科学者は、お酒をたくさん飲むようになりました。 |
〔ふりがな〕 そのご、かがくしゃは、おさけを たくさん のむようになりました。 |
ある日、一人の老婆が現れました。 「可哀想に。こんなに苦しんで・・・。楽になりたければ、あなたの枯葉剤の犠牲になった人たちに、花を手向けるんだよ」 「え、花を?」 「そうじゃ。お墓へ行って、花を手向けるのじゃ」 |
一瞬、耳を傾けました。けれど…、激しい恐怖で胸が締め付けられました。 |
〔ふりがな〕 あるひ、ひとりの ろうばが あらわれました。 「かわいそうに。こんなに くるしんで・・・。らくになりたければ、あなたの かれはざいの ぎせいになった ひとたちに、はなを たむけるんだよ」 「え、はなを?」 「そうじゃ。おはかへ いって、はなを たむけるのじゃ」 いっしゅん、みみをかたむけました。けれど…、はげしい きょうふで むねが しめつけられました。 |
「じょ、じょうだんじゃない! 悪いのはあいつらだ。俺たちは、自由と民主主義のために、命がけで戦ったんだ! 枯葉剤を使ったお陰でわが国の大勢の兵士の命が救われたんだ。敵を殺すのは当たり前じゃないか。 悪と戦い、国益を守るのは、市民の神聖な義務なんだ。それに、もし競争に負ければ惨めに殺されるだけだ。力の無い正義など、存在しない!」 彼は、老婆を怒鳴りつけました。 |
〔ふりがな〕 「じょ、じょうだんじゃない! わるいのは あいつらだ。おれたちは、じゆうとみんしゅしゅぎのために、いのちがけで たたかったんだ! 」 「かれはざいを つかったおかげで わがくにの おおぜいの へいしの いのちが すくわれたんだ。 てきをころすのは あたりまえじゃないか。 あくとたたかい、こくえきを まもるのは、しみんの しんせいな ぎむなんだ。 それに、もしきょうそうに まければ みじめに ころされるだけだ。ちからのない せいぎなど、そんざいしない!」 かれは、ろうばを どなりつけました。 |
その後、科学者は、お酒を飲みすぎて亡くなりました。―そして、30年が過ぎました。 科学者の孫が、空軍のパイロットになっています。 |
〔ふりがな〕 そのご、かがくしゃは、おさけを のみすぎて なくなりました。-そして、30ねんが すぎました。かがくしゃの まごが、くうぐんの ぱいろっとに なっています。 |
彼は、子どもの頃から、建国の英雄の子孫として、正義のために悪と戦うことに憧れていました。
―むろんそれが、彼が子どもの頃から受けた教育だったのです。 「この国は建国以来、常に正義のために悪と戦ってきた。お前たちも、正義のために戦え」と。 テレビや映画の正義のヒーローたちも、みな悪と戦っていますよね! |
〔ふりがな〕 かれは、こどものころから、けんこくの えいゆうの しそんとして、 せいぎのために あくとたたかうことに あこがれていました。 ―むろんそれが、かれが こどものころからうけた きょういく だったのです。 「このくには けんこくいらい、つねに せいぎのために あくとたたかってきた。おまえたちも、せいぎのためにたたかえ」と。 てれびや えいがの せいぎのひーろーたちも、みなあくと たたかっていますよね! せいぎのために あくと たたかおう! |
さて、ダイヤの触覚を持つ人々の強大な国は、今度は遠い砂漠の、核兵器を持たない小さな国と戦争を始めました。 これでついに彼も立派なご先祖たちと同じように、正義のために戦えるのです。彼は喜び勇んで、上空から爆弾をたくさん落としました。 |
〔ふりがな〕 さて、だいやのしょっかくをもつ ひとびとの きょうだいなくには、こんどは とおいさばくの、かくへいきを もたない ちいさなくにと せんそうをはじめました。 これでついに、かれも りっぱな ごせんぞたちと おなじように、せいぎのために たたかえるのです。 かれは よろこびいさんで、じょうくうから、ばくだんを たくさんおとしました。 |
敵も打ち返してくるようです。
でも、敵の弾は、はるか上空を飛ぶ彼の飛行機には全く近づくことは有りません。
彼は、簡単に、安全に、大勢の敵を殺しました。 |
〔ふりがな〕 てきも うちかえしてくるようです。でも、てきのたまは、はるか じょうくうを とぶ かれのひこうきには まったく ちかづくことはありません。 かれは、かんたんに、あんぜんに、おおぜいのてきを ころしました。 |
「これって戦いじゃない。ただの一方的な殺戮だ。殺虫剤でハエを殺すのと変わらない」 そう思った彼は、急に気持ちが悪くなりました。 |
一方で、これを見たこの星の人々は恐怖に震え、核兵器の開発、軍事力の増大に努めました。 |
〔ふりがな〕 「これって たたかいじゃない。ただのいっぽうてきな さつりくだ。さっちゅうざいで はえをころすのとかわらない」 そうおもったかれは、きゅうに きもちが わるくなりました。 いっぽうで、これをみた このほしのひとびとは きょうふにふるえ、かくへいきの かいはつ、ぐんじりょくのぞうだいに つとめました。 |
さて、砂漠からの帰国後、彼はドラッグを使うようになりました。 おじいさんがお酒で早死にしていたので、お酒は飲めなかったのです。 |
〔ふりがな〕 さて、さばくからの きこくご、かれは どらっぐを つかうようになりました。 おじいさんが おさけで はやじにしていたので、おさけは のめなかったのです。 |
ある日、老婆が現れました。 「可哀想に。こんなに怖がって、苦しんで・・・。楽になりたかったら、お前が殺した人々へ花を手向けてごらん。」 |
〔ふりがな〕 あるひ、ろうばが あらわれました。 「かわいそうに。こんなにこわがって、くるしんで・・・。 らくになりたかったら、おまえがころした ひとびと へはなをたむけてごらん。」 |
「貴様、俺に謝れというのか! ふざけるな! 俺は悪くなんかない。俺は、自由と民主主義と人権と正義のために戦ったんだ!」
「分かっているわ」
「つまり、俺が悪いから、謝れということだろう!?」
|
〔ふりがな〕 「きさま、おれに あやまれというのか! ふざけるな! おれは わるくなんかない。おれは、じゆうと みんしゅしゅぎと じんけんと せいぎのために たたかったんだ!」 「わかっているわ」 「え?」 「あなたが あくにんだなんて、だれがいったの?」 「だって、おまえは はなをたむけろと いうじゃないか!」 「そうですよ。わたしは、はなをたむけなさい といっているだけですよ」 「つまり、おれがわるいから、あやまれ ということだろう!?」 「そんなこと、ひとこともいっていないわ。はなを たむけなさいといっているだけ」 |
「…どういうことなんだ?」
「あなたが悪だなんて言っていないの。相手への自然な同情の気持ちを抑えるなって言っているだけ。自分の愛を抑えて、どうするの!?」 「自分の愛だって?」 「そうよ、自分の愛よ」 |
〔ふりがな〕 「…どういうことなんだ?」 「あなたが あくだなんていっていないの。あいてへの しぜんなどうじょうの きもちを おさえるなっていっているだけ。じぶんのあいを おさえて、どうするの!?」 「じぶんの あい だって?」 「そうよ、じぶんのあいよ」 |
「…だけど、謝罪しようにも、相手はもう死んでいるんだぞ!」
「相手が生きていようが死んでいようが関係ないわ。謝罪は、自分のためにするものなのよ。 あなたを苦しめているのは、悪霊なんかじゃないわ。あなたは、あなた自身の愛と戦っているの。 ―まだ、分からないの? 早く、目を開けなさい!」 「・・・」彼は長いこと、黙りこみました。 |
〔ふりがな〕 「…だけど、しゃざい しようにも、あいては もう しんでいるんだぞ!」 「あいてが いきていようが しんでいようが かんけいないわ。 しゃざいは、じぶんのために するものなのよ。 あなたを くるしめているのは、あくりょう なんかじゃないわ。 あなたは、あなたじしんの あいと たたかっているの。-まだ、わからないの? はやく、めをあけなさい!」 「・・・」 かれはながいこと、だまりこみました。 |
「花を手向けるだけで良いのか?」
「そうよ」 「花を手向けても、…俺は、地獄に落ちないのか?」 「当たり前でしょう!」 「本当に、花を手向けるだけで、楽になれるのか?」 「なれるわ。…たった花一輪のことで、何を怖がっているの?」 「…」 「いったい誰が、永遠に自分自身の愛に逆らえるというの?」 |
〔ふりがな〕 「はなを たむけるだけで よいのか?」 「そうよ」 「はなを たむけても、・・・おれは、じごくに おちないのか?」 「あたりまえでしょう!」 「ほんとうに、はなをたむけるだけで、らくになれるのか?」 「なれるわ。…たった はないちりんのことで、なにを こわがっているの?」 「…」 「いったいだれが、えいえんに じぶんじしんのあいに さからえるというの?」 |
彼は、砂漠の国へ戻りました。 |
彼を、大勢の市民が睨みつけました。 |
〔ふりがな〕 かれは、さばくのくにへ もどりました。 かれを、おおぜいの しみんが にらみつけました。 |
彼は、自分が爆弾を落とした場所へ行きました。そこには、墓らしきものがありました。 市民が大勢集まって来ました。 |
彼はお墓へ花を一輪手向けて、黙祷をしました。 |
〔ふりがな〕 かれは、じぶんが ばくだんを おとしたばしょへ いきました。 そこには、はからしきものが ありました。 しみんが おおぜい あつまってきました。 かれは おはかへ はなをいちりんたむけて、もくとうを しました。 |
花が心の壁に穴を開け、そこからイメージがなだれ込んで来ました。 |
〔ふりがな〕 はなが こころのかべにあなをあけ、そこから いめーじが なだれこんできました。 |
イメージの中で、人々が火に焼かれて死んでいきます。その人々の痛みが、本物の苦痛となって彼に襲い掛かってきます。 |
その痛みは耐えがたいほどのものでした。 でも、彼は歯を食いしばって、花が開けた心の壁を開き続けたのです もう、目をつぶって、自分を暗闇に閉じ込めたくはない! |
〔ふりがな〕 いめーじのなかで、ひとびとが ひにやかれて しんでいきます。 そのひとびとのいたみが、ほんものの くつうとなって かれに おそいかかってきます。 ああ、あつい! くるしい! そのいたみは たえがたいほどのものでした。でも、かれは はをくいしばって、 はなが あけた こころのかべ をひらきつづけたのです。もう、めをつぶって、じぶんを くらやみにとじこめたくはない! |
いつのまにか彼は叫んでいました。 |
〔ふりがな〕 わたしには あなたたちの いたみが わからなかった。 いっしょうけんめい、めをつぶっていたのです。 でもわたしはいま、こころのめをひらき、あなたたちの いたみを かんじています! ああ、ごめんなさい。どうかゆるして! いつのまにか かれは さけんでいました。 |
―どれぐらいの時間が経ったのでしょう? ふと気づくと、自分の回りに大勢の市民がいました。市民たちは、みな、涙を流しています。 彼も市民たちと一緒に泣きました。 |
〔ふりがな〕 ―どれぐらいの じかんが たったのでしょう? ふときづくと、じぶんのまわりに おおぜいのしみんが いました。 しみんたちは、みな、なみだを ながしています。 かれも しみんたちといっしょに なきました。 |
―それから20年が経過しました。 彼はもうドラッグを使うことは有りません。
多くの人々に好かれた彼は、 とうとうダイヤの触角を持つ人々の国の大統領となっていました。 |
〔ふりがな〕 ―それから20ねんが けいかしました。 かれはもう どらっぐ をつかうことはありません。 おおくの ひとびとに すかれたかれは、 とうとう だいやのしょっかくを もつ ひとびとの くにの だいとうりょうとなっていました。 |
ある日の閣議で、彼は他の大臣達へ言いました。
「わが国の建国、人種差別、戦争の犠牲となった人々みんなに、国を代表する大統領として花を手向けたい」 |
大臣たちは、それを聞いてゾッとしました。そんなことをしたら国民に殺される、…そう思ったのです。 |
〔ふりがな〕 あるひのかくぎで、かれは ほかのだいじんたちへ いいました。 「わがくにの けんこく、じんしゅさべつ、せんそうの ぎせいとなったひとびとみんなに、 くにを だいひょうする だいとうりょうとして はなをたむけたい」 だいじんたちは、それをきいて ぞっとしました。そんなことをしたら こくみんにころされる、 …そうおもったのです。 |
大臣たちは、口々に反対しました。
「もし、我々に何か罪があるなら、神に告白し、神に懺悔すれば良い 」 「亡くなった人間に花を手向けたって、そんなもの、何になるんだ? それとも、霊なんて非科学的なものを信じているのか!?」 「国家としての威信が傷つく! みんなわが国を馬鹿にするぞ! あんたは大統領のくせに、わが国の正義を否定するのか!? まさか、わが国が悪だとでも言うのか!? もし謝罪なんかしたら、俺達が悪になってしまう。 悪は地獄に落ちるんだぞ!」 |
〔ふりがな〕 だいじんたちは、くちぐちに はんたいしました。 「もし、われわれに なにかつみがあるなら、かみに こくはくし、かみに ざんげすればよい 」 「なくなったにんげんに はなをたむけたって、そんなもの、なにに なるんだ? それとも、れいなんて ひかがくてきなものを しんじているのか!?」 「こっかとしての いしんがきずつく! みんな わがくにをばかにするぞ! あんたは だいとうりょうのくせに、 わがくにの せいぎを ひていするのか!? まさか、わがくにが あくだとでもいうのか!? もししゃざいなんかしたら、おれたちが あくになってしまう。 あくは じごくにおちるんだぞ!」 |
「そうだ! 我々は常に正しい! 我々の敵は、常に悪だ! 」
「そんなことよりも、核兵器を増やさないと」 「そうだ、あの国も、この国も原爆を持っている。原爆を持つ国はどんどんと増えているんだ。わが国は、敵の何倍も、もっともっと核兵器を持たないと」 「そうだ、圧倒的な量の核兵器だけが、わが国の自由と安全と正義と人権と民主主義を守ってくれるんだ!」 |
〔ふりがな〕 「そうだ! われわれは つねにただしい! われわれのてきは、つねにあくだ! 」 「そんなことよりも、かくへいきを ふやさないと」 「そうだ、あのくにも、このくにも げんばくをもっている。げんばくを もつくには どんどんとふえているんだ。 わがくには、てきのなんばいも、もっともっと かくへいきを もたないと」 「そうだ、あっとうてきなりょうの かくへいきだけが、わがくにの じゆうと あんぜんと せいぎと じんけんと みんしゅしゅぎを まもってくれるんだ!」 |
「大統領、もし、あんたが勝手に謝罪などしたら、大統領といえども、命の保証は有りませんぞ」 |
閣僚たちは、全員で大統領を脅迫したのです。 |
〔ふりがな〕 「だいとうりょう、もし、あんたが かってに しゃざいなどしたら、 だいとうりょうといえども、いのちのほしょうは ありませんぞ」 かくりょうたちは、ぜんいんで だいとうりょうを きょうはくしたのです。 |
その後、大統領は、昔の敵国、三角の触覚を持つ人々の国を訪問しました。 大統領の国は、戦争に勝利した後、この国に100箇所以上の軍事基地を作りました。だからもう、この国が逆らうことは有りません。 |
〔ふりがな〕 そのご、だいとうりょうは、むかしのてきこく、さんかくの しょっかくを もつ ひとびとのくにを ほうもんしました。 だいとうりょうの くには、せんそうに しょうりしたあと、このくにに 100かしょいじょうの ぐんじきちをつくりました。 だからもう、このくにが さからうことはありません。 |
大勢の警官やガードマンが大統領を常に囲んでいます。 ―その中には、大臣たちのスパイもいるようです。 |
〔ふりがな〕 おおぜいの けいかんや がーどまんが だいとうりょうを つねにかこんでいます。―そのなかには、だいじんたちの すぱいもいるようです。 |
トイレに行った大統領は、突然、窓から外へ抜け出しました。サングラスとマスクで変装し、そして電車に乗り込んだのです。 |
〔ふりがな〕 といれにいった だいとうりょうは、とつぜん、まどから そとへ ぬけだしました。 さんぐらすと ますくで へんそうし、そして でんしゃに のりこんだのです。 だいとうりょうが にげたぞ! |
さて、大統領が向かったのは80年前、大統領の国が原子爆弾を落とした町の一つでした。 現職大統領でこの町を訪問するのは彼が初めてです。 |
「正しいことをしたのだから謝る必要は無い」 |
過去の大統領は、みな同じことを言い続けて来ました。むろん、この星の人々はこれを聞いて恐怖に震え、軍備や核兵器を増やし続けています。 |
〔ふりがな〕 さて、だいとうりょうが むかったのは80ねんまえ、だいとうりょうのくにが げんしばくだんを おとした まちのひとつでした。 げんしょく だいとうりょうで このまちを ほうもんするのは かれがはじめてです。 「ただしいことを したのだから、あやまるひつようは ない」 かこのだいとうりょうは、みなお なじことを いいつづけてきました。むろん、このほしのひとびとは これをきいて きょうふにふるえ、 ぐんびやかくへいきを ふやしつづけています。 |
大統領は、原爆を落とした町にある、原爆記念館の前で変装をときました。そして、訪問者のサインブックに、大統領とサインをしました。 |
気づいた人々がびっくりしています。 |
〔ふりがな〕 だいとうりょうは、げんばくを おとしたまちに ある、げんばくきねんかんの まえで へんそうを ときました。 そして、ほうもんしゃの さいんぶっくに、だいとうりょうと さいんをしました。 「もしもし、てれびきょくですか? いま、だいとうりょうが ここにいますよ!」 きづいたひとびとが びっくりしています。 |
大統領は、たった一人で原爆記念館を見学しました。 黒こげの子供。ケロイドの人。放射能で髪の毛を失った女性。―そこには、地獄がありました。 |
〔ふりがな〕 だいとうりょうは、たったひとりで げんばくきねんかんを けんがくしました。 くろこげの こども。けろいどの ひと。ほうしゃのうで かみのけを うしなったじょせい。―そこには、じごくが ありました。 |
それから大統領は、花を一輪持って原爆慰霊碑 に向かいました。大勢の人々が集まって来ました。 |
大統領が、原爆慰霊碑に花を手向ける姿は、テレビで全世界へ向けて放映されました。 |
〔ふりがな〕 それから だいとうりょうは、はなを いちりんもって げんばくいれいひに むかいました。おおぜいの ひとびとが あつまってきました。 だいとうりょうが、げんばくいれいひに はなをたむける すがたは、てれびで ぜんせかいへむけて ほうえいされました。 |
大統領の長い黙祷が終わりました。目を上げたとき、大統領は泣いていました。 |
「大統領、お話を」 |
「今、私は、わが国が原子爆弾で殺した何十万人の人たちへ、献花をしました。 |
〔ふりがな〕 だいとうりょうの ながい もくとうが おわりました。めをあげたとき、だいとうりょうは ないていました。 「だいとうりょう、おはなしを」 「いま、わたしは、わがくにが げんしばくだんで ころした なんじゅうまんにんの ひとたちへ、けんかをしました。 |
私は、この献花で、わが国を悪と裁くものでは有りません。
もちろん、我々と戦ったあなたがたを悪と裁くものでも有りません。
誰かを悪だと裁くことは、 |
〔ふりがな〕 わたしは、このけんかで、わがくにを あくとさばく ものではありません。 もちろん、われわれと たたかった あなたがたを あくとさばくものでも ありません。 だれかを あくだとさばくことは、 「わたしは そのひとを りかいせずに にくみます、ばっします、たたかいます」という、せんげんいがいの なにものでもないからです」 |
世界中の人々が、テレビを通して、大統領の姿を見ています。 テロリストも、敵国の政治家も、大統領の国の閣僚も、です。 |
〔ふりがな〕 せかいじゅうの ひとびとが、てれびを とおして、だいとうりょうの すがたをみています。てろりすとも、てきこくのせいじかも、だいとうりょうの くにの かくりょうも、です。 ぼす、げんばくが かえそうです。 うるさい、ちょっとだまれ。 |
「…私の献花は、原爆の犠牲者への、無条件の深い同情、そして私たちの身を焼くような後悔を現すために、行ったものです。
つまり、この花は、善悪ではなく、我々のあなた方への、愛を象徴するものです。愛の花は、善悪を超越したところに、咲くのです。 我々の友人たちよ。どうか、このたった一本の花を受け入れて欲しい。 そして、私たちが与えてしまった、あなた方の痛みを、これからはあなた方だけの痛みではなく、自分たちのものとして、友人として、共有することを許しては貰えないでしょうか」 |
〔ふりがな〕 「…わたしのけんかは、げんばくの ぎせいしゃへの、むじょうけんの ふかいどうじょう、そして わたしたちの みをやくような こうかいを あらわすために、 おこなったものです。 つまり、このはなは、ぜんあくではなく、われわれの あなたがたへの、あいを しょうちょうするものです。 あいのはなは、ぜんあくを ちょうえつしたところに、さくのです。 われわれの ゆうじんたちよ。どうか、このたったいっぽんの はなを うけいれてほしい。 そして、わたしたちが あたえてしまった、あなたがたのいたみを、これからは あなたがただけの いたみではなく、じぶんたちのものとして、 ゆうじんとして、きょうゆうすることを ゆるしてはもらえないでしょうか」 |
大統領のスピーチを聞いた世界中の人々が、いつのまにか一緒に涙を流しています。 戦争の準備をしていた敵の国の人々も、テロリストたちも、大統領に反対した大臣たちも、泣き出しました。 |
〔ふりがな〕 だいとうりょうの すぴーちを きいた せかいじゅうの ひとびとが、いつのまにか いっしょになみだをながしています。 せんそうの じゅんびを していた てきのくにの ひとびとも、てろりすとたちも、 だいとうりょうに はんたいした だいじんたちも、なきだしました。 |
〔ふりがな〕 げんばくは、もう、つかえない。 |
むろん、平和公園に集まった群衆たちも泣いています。その中には、あの老婆の姿も有りました。 |
〔ふりがな〕 むろん、へいわこうえんに あつまった ぐんしゅうたちも ないています。 そのなかには、あのろうばのすがたも ありました。 |
そして、1000年が経ちました。 その後様々な事がありましたが、人々の真剣な相互理解の努力の結果、今では恒久的な平和が実現しています。軍備も核兵器も博物館に陳列されたもの以外は、全て廃棄されました。 |
〔ふりがな〕 そして、1000ねんがたちました。 そのご さまざまなことが ありましたが、ひとびとの しんけんな そうごりかいの どりょくのけっか、 いまでは こうきゅうてきな へいわが じつげんしています。 ぐんびも かくへいきも はくぶつかんに ちんれつされたもの いがいは、すべてはいき されました。 |
初めて原爆慰霊碑に献花をした大統領の名前は、世界平和を達成する切っ掛けを作った偉人として、人々に語り継がれています。彼の墓には1,000年経った今でも花がいっぱいです! |
〔ふりがな〕 はじめて げんばくいれいひに けんかを した だいとうりょうの なまえは、 せかいへいわを たっせいする きっかけを つくった いじんとして、 ひとびとに かたりつがれています。 かれの はかには1,000ねんたった いまでも はなが いっぱいです! かれは、いちりんのはなで げんばくを ほろぼした。 |
あとがき 絵本「一輪の花」 |
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もし、あなたがこの絵本に共感されたなら、他の方にも読ませてあげていただければと思います。
本絵本は、自由にコピーして下さって結構です(商業出版はじめ金銭的な授受を伴う場合を除きます)。 また下記WEBからは、東郷潤の他の絵本やメッセージをダウンロードすることが出来ます。 www.j15.org |
©Jun Togo 2006 |
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